特定技能関連
深刻な人手不足が続く特定産業分野において、一定の専門性・技能をもつ外国人を受け入れて人材を確保することを目的とした特定技能制度には、事前ガイダンスが義務付けられています。
この記事では、特定技能制度の事前ガイダンスの概要や、必ず説明すべき内容、任意的支援として補足すべき内容などについて解説します。実施方法や注意点、記録・確認の考え方についても解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

目次
特定技能の事前ガイダンスとは
まずは、特定技能制度における事前ガイダンスの定義や義務的支援における位置付け、実施の目的と重要性について解説します。
事前ガイダンスの定義
特定技能制度の事前ガイダンスとは、特定技能1号の外国人が日本での就労・生活に円滑に適応できるようにするために行う説明会のようなものです。原則として、3時間程度、オンライン等も活用して実施することが可能です。
受入れ企業または登録支援機関が雇用契約締結後、在留資格認定証明書交付申請(または変更許可申請)の前までに、労働条件や入国手続き、日本でのルールなどを母国語等で説明する義務的支援となっています。
義務的支援における位置づけ
特定技能1号の外国人を雇用する際、企業には10項目の義務的支援が課せられます。外国人が日本で円滑に生活・就労し、トラブルの防止や定着を促すための重要な役割を果たしています。
項目は「事前ガイダンスの提供」「出入国時の送迎」「住居確保・生活契約の支援」「生活オリエンテーションの実施」「公的手続きへの同行」「日本語学習の機会の提供」「相談・苦情への対応」「日本人との交流促進」「転職支援(人員整理等の場合)」「定期面談の実施」の10項目です。
事前ガイダンスの提供は義務的支援の1つ目の項目であり、まずはじめに実施すべき項目となっています。
実施の目的と重要性
事前ガイダンスの主な目的は、外国人が日本での就労・生活を開始するにあたって、労働条件や権利、義務などを正しく理解し、安心して安定的に働ける環境を構築できるようにすることです。
違法な保証金徴収や違約金契約がないことを確認し、安全な働き方を確保したり、日本での就労・生活に関する情報を提供して来日前の不安を軽減したりするなど、相互の信頼関係を構築するうえでも重要視される義務的支援です。
事前ガイダンスの実施タイミングと対象者の考え方

事前ガイダンスを実施するタイミングや、海外在住者と日本在住者それぞれに必要な説明観点について解説します。
雇用契約締結から就労開始までの位置づけ
事前ガイダンスは、特定技能雇用契約の締結後、かつ在留資格認定証明書交付申請または変更許可申請の前に必ず実施しなければなりません。外国人が母国にいる場合は入国前、国内にいる場合は在留資格の申請前までに実施する必要があります。
事前ガイダンス実施後に在留資格認定証明書交付申請または変更許可申請を行い、許可されてから入国・移動し、就労開始となります。
海外在住者に必要な説明観点
まずは、雇用契約内容として、業務内容・報酬額・労働条件、日本で行える活動内容の説明や確認を行います。また、入国・在留手続きの説明や、保証金・違約金などの契約がないこと、送出し機関へ支払った費用が適正な金額かの確認も行います。
さらに、企業が負担する支援費用の内容や、住居の確保・生活環境、交通ルールやゴミの出し方などの日本での生活ルールの説明も必要です。また、相談・苦情の窓口や支援担当者についてもきちんと説明します。
日本在住者に必要な説明観点
日本在住者の場合も、まずは労働条件や雇用契約の内容などの説明や確認を行います。技能実習から特定技能への変更点や、法令・入管法・義務、保証金徴収や違約金契約の禁止、転職に関するルールなども丁寧に説明することが大切です。
また、税金や社会保険の納付義務、日本での生活ルール、在留カードの携帯・提示義務、住所変更届、年末調整などについても丁寧な説明が必要です。さらに、契約した登録支援機関の連絡先や相談窓口の周知も行います。
事前ガイダンスで必ず説明すべき内容(義務的支援)
事前ガイダンスにおいて、義務的支援として必須となる説明項目の概要をそれぞれ解説します。
業務内容・報酬額・労働条件の説明
従事する業務の具体的な内容や報酬額について、明確かつ丁寧に説明する必要があります。また、具体的な労働時間や休日、休暇、安全・衛生に関する事項についても説明と確認が必要です。
在留資格で行える活動内容の説明
日本での活動内容について、特定技能1号として許可された範囲内で就労可能な職種や業界について説明します。
新規入国や在留資格変更に必要な手続きの説明
在留資格認定証明書の交付申請・送付、ビザ申請など、新規入国や在留資格変更手続きの流れを説明します。
保証金・違約金契約が不可であることの説明
特定技能外国人から保証金を徴収したり、退職時に違約金を支払わせたりする契約を結ぶことは、強制労働につながる恐れがあるため法律で厳しく禁止されていることを説明し、そのような契約をしていないか確認します。
入社準備費用や支払いがある場合の内容確認
誰が負担するのか、具体的な金額や内容について確認します。受入企業が準備・負担すべき主な費用には、人材紹介手数料や送り出し機関手数料、在留資格申請費用、渡航費用・ビザ申請費、登録支援機関への委託費などがあります。
支援費用を本人負担にできないことの説明
支援費用は原則として企業側が全額負担する義務があるため、本人が同意して署名しても、費用を負担させることは違法となることを説明します。
入国時の送迎や住居確保支援の説明
企業側には、入国時に空港・港と事業所や住居の間の移動をサポートする義務や、住宅の確保をサポートする責任があるため、具体的な内容について説明します。
相談・苦情の申し出方法と支援担当者の案内
相談・苦情がある場合の受付窓口として、登録支援機関の連絡先などを伝えます。また、支援担当者についても説明しておきます。
事前ガイダンスで説明するのが望ましい内容(任意的支援)
事前ガイダンスにおいて、任意的支援として補足するのが望ましい内容をそれぞれ解説します。
日本の気候と適切な服装の説明
日本の気候の特徴である四季について、各季節の特徴と適した衣服を具体的に説明し、来日時の持参品が検討しやすくなるようにアドバイスします。
持参可能な物と持参すべきでない物の説明
日本での生活に必要なものとして、日本の気候に合わせた衣服や防寒着、転居直後の寝具や調理器具、洗濯用品などは持参可能です。
持参すべきでない物としては、ハムやソーセージなどの肉製品や果物、植物、生鮮食品などがあります。また、日本の法律に抵触する恐れがあるものや過剰な現金、重すぎる荷物なども持参不可となります。
当面必要となる費用の目安と用途の説明
入国直後の1ヶ月間に必要な、初めての生活で使用する生活費の目安を伝えます。食費や日用品費、住居初期費用、通信費、交通費など、具体的な項目と金額の目安を伝えておきましょう。
受入れ機関からの支給物の説明
特定技能制度の義務的支援における受入れ機関からの支給物品は、作業着や制服、工具、安全靴など、業務に必要なものや生活備品です。支給時期や管理方法についても確認しておきましょう。
事前ガイダンスの実施方法と実施時間の要件

事前ガイダンスの実施方法の選択肢や、本人確認・実施時間の考え方、複数名同時実施時の注意点について、それぞれ解説します。
対面・オンラインなど実施方法の選択肢
事前ガイダンスは、対面方式以外にも、Zoomなどのテレビ電話ツールでの実施が可能です。また、録画された動画を視聴させたうえで、重要なポイントをテレビ電話で補足説明するなど、双方向性が担保されている場合には動画視聴による実施も可能です。
本人確認ができる方法で実施する考え方
本人確認ができる方法として、ZoomやMicrosoft Teams、Google Meet、FaceTimeなど、相手の顔と、パスポートなどの本人確認書類をリアルタイムで確認できるツールを使用することが推奨されます。なりすましの防止や情報の適正な伝達のためにも、本人確認ができる方法であることは重要です。
実施時間の目安と要件(3時間以上等)
事前ガイダンスは、3時間程度の実施が目安とされています。法令により義務付けられた支援事項である点や、労働条件や日本での生活ルールを外国人が十分に理解・納得できるまで丁寧に行う必要がある点からも、最低でも3時間程度を目安とします。特に、1時間に満たない場合は不適切とみなされる場合があるため、時間の短縮は避けるようにしましょう。
複数名同時実施時の注意点
業務・報酬・支援内容などが同条件であれば、複数名への同時実施が可能です。しかし、全員が十分に理解できるよう、母国語での説明や書面交付、理解度確認を個別に行うなどのフォローが必要です。
事前ガイダンスを実施する際の注意点

形式的な実施にしないために、言語・理解度の確認・説明品質の観点でそれぞれ注意点を解説します。
理解しやすい言語での説明
外国人が事前ガイダンスの内容を正しく理解するためには、一律で日本語で説明するのではなく、対象となる外国人の母国語や、英語など本人が理解できる言語で説明することが重要です。
理解度の確認と質疑応答の設計
外国人材が労働条件や生活ルールを確実に理解できるよう、一方的に説明するだけでなく、理解度の確認や双方向の質疑応答を設計することが重要です。
具体的には、「休日はいつですか?」「もし体調が悪くなったら誰に連絡しますか?」など、重要ポイントを直接確認する口頭試問や、事前ガイダンスで使用した資料の内容をベースにチェックシートを作成するなどの工夫が求められます。
日本語が十分に理解できない場合は、必ず母国語の資料や通訳を用いて確認を行うことが重要です。また、給与明細のサンプルや勤務表の実物を見せながら「これは何を表していますか?」と確認するなど、視覚的ツールを活用するのも有効です。
説明不足がトラブルにつながる典型例
よくあるトラブルとして、「手取り額の誤解」があります。基本給だけでなく、社会保険料や税金などが控除される前の金額を「手取り」と勘違いし、来日後に「給与が少ない」と不満をもつケースです。
また、日本の生活ルールを正しく理解していなかったことで、ゴミ出しや騒音などで近隣トラブルになり、企業が対応に追われるケースもあります。さらに、困ったときに誰に相談すればいいかわからず、不満を溜め込んで突然失踪するケースもあります。
事前ガイダンスと生活オリエンテーションの違い
事前ガイダンスと混同されやすい「生活オリエンテーション」について、それぞれの役割や違いを解説します。
事前ガイダンスの役割
事前ガイダンスは、入国前の契約時の労働条件説明が主な目的で、雇用契約内容、賃金、労働時間、業務内容、支援内容、日本でのルールなどについて、詳しい説明や確認を行います。
雇用条件の詳細を伝えて合意形成を図ったり、保証金や違約金に関する契約をしていないことの確認を行ったりすることで、トラブルを未然に防ぐ役割を果たします。また、日本の生活ルールやマナー、緊急時の対応を伝え、安心して就労・生活できる環境を整えることも、事前ガイダンスの重要な役割です。
生活オリエンテーションの役割
生活オリエンテーションは、入国後または資格変更後に実施するもので、特定技能外国人が日本での生活と労働を安定的かつスムーズに開始できるようにさまざまな説明や確認を行う機会です。スムーズな生活適応の支援やトラブルの防止、安心して長期就業できる環境の構築が主な役割です。
具体的には、日本の生活におけるルールの説明や確認、銀行口座の開設、携帯電話の契約、住民登録の手続きのサポートなどを行います。また、緊急時における救急車や警察の呼び方、災害時の避難場所、医療機関の受診方法などについても丁寧に伝えます。
実施順序と情報の重複整理
事前ガイダンスは入国前、生活オリエンテーションは入国後に実施するのが正しい順序です。事前ガイダンスは主に契約に関する内容が中心であるのに対し、生活オリエンテーションでは主に日本での暮らしに関する内容を中心に説明や確認を行います。
雇用契約内容や労働条件の確認、生活のルールなどは重複する内容もありますが、生活オリエンテーションの際にも確認の意味を込めて改めて説明するとよいでしょう。
事前ガイダンスの記録と確認書の扱い
事前ガイダンスの確認書の必要性や記載内容の考え方、運用上の注意点について解説します。
記録を残す必要性
事前ガイダンスの記録は、入管の審査や将来的な監査対応において、事前ガイダンスや支援が適切に行われているかを証明するための重要な書類となります。記録がない場合や不備がある場合は、在留資格の申請が不許可になるリスクや登録支援機関の登録取り消しのリスク、企業への是正勧告などのリスクが高まります。
事前ガイダンスは基本的に3時間以上、相手が理解できる言語で行わなければならないため、実施時間や内容を具体的に記録することが必要です。実施日時や場所、実施内容、使用言語、参加者などについて記録し、雇用契約終了後1年以上の保管が必要になります。
確認書に記載すべき情報の考え方
事前ガイダンスでは、従事する業務内容や報酬額、安全・衛生などの労働条件、ビザ申請、日本での活動範囲などについて説明した内容を記載します。また、住居や送迎の確認、保証金徴収や違約金契約がないことなどの確認についても記載が必要です。最後に、外国人本人が説明を聞き、理解したという署名も必要です。
提出・保管の運用で注意すべき点
事前ガイダンスの確認書は、入管への申請時には原則として提出する必要はありませんが、監査時に提示を求められます。また、特定技能外国人の受入れ期間中と終了後1年間は、事前ガイダンスの記録を保管する必要があります。その際、外国人本人の署名入りの「事前ガイダンス確認書」を保管しておかなければなりません。
登録支援機関へ委託する場合の考え方
事前ガイダンスを登録支援機関へ委託する場合について、役割分担や確認事項、支援計画との整合性などのポイントを解説します。
自社実施と委託の役割分担
特定技能制度における事前ガイダンスは、受入れ企業が自社実施するか、登録支援機関へ完全に委託するかを選択可能です。
自社実施の場合は内部で完結するため、費用がかかりません。ただし、計画作成、実施、記録報告と、どうしても担当者の負担が重くなってしまいます。しかし、企業の担当者が労働条件や生活のルール、相談窓口、支援計画などを直接説明できるため、現場の即応性や関係強化につながります。
一方で、登録支援機関へ委託する場合は、委託費用が発生するため、注意が必要です。しかし、担当者は報告の確認のみで、負担が軽くなり、手間がかからなくなります。
委託時に確認すべき実施品質
事前ガイダンスを委託する際には、3時間以上実施されているか、本人の母国語または理解できる言語で実施されているか、理解度をチェックしたかなどを確認することが大切です。また、伝えるべき項目が漏れなく説明されていることも確認が必要です。
書面だけでなく、多言語ツールや視覚的ツールを活用し、動画やイラストなどを用いたわかりやすい資料を使っていることも、実施品質としては重要になります。また、事前ガイダンス実施の記録が適切に管理されているかについても確認しておくことが大切です。
支援計画との整合性
特定技能制度の事前ガイダンスは、必ず実施すべき法的義務であるため、支援計画の一部として明記することが必要です。事前ガイダンスは雇用契約締結後、申請前に実施する必要があり、実施日と雇用契約締結日時に整合性が求められます。
支援計画は、事前ガイダンス資料に基づいて、労働条件や住居、支援内容などを記載して作成し、提出する1号特定技能社員支援計画書と整合性をもたせることが重要です。実施後は署名入りの受領書を保管し、支援計画書の作成方法通りに実施されたことを証明することが求められます。ルールが守られていない場合は、支援計画違反として罰則の対象となります。
まとめ
特定技能制度の事前ガイダンスは、義務的支援のひとつであり、外国人労働者が日本での生活や労働にスムーズに適応し、雇用主と信頼関係を築くためにも非常に重要な役割を果たします。トラブルの未然防止のためにも、実施のタイミングや説明項目、記録の保管などのルールを遵守し、適切な方法で実施することが重要です。
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