特定技能関連
外国人人材を採用する際には、その国の文化や宗教について正しく理解したうえで、適切な配慮が必要です。
この記事では、インドネシア人材を採用・雇用するうえで重要となる宗教事情について、背景や構造、実務上の影響などについて解説します。宗教理解がなぜトラブル防止や定着率向上につながるのかを企業側の視点で解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次
インドネシア人材採用で宗教理解が重要となる理由
日本とインドネシアの宗教観の違いや雇用トラブルにつながる構造、採用・労務管理における宗教理解の位置づけなど、採用前に理解しておくべき点について解説します。
日本とインドネシアの宗教観の違い
日本とインドネシアの宗教観の大きな違いは、日常生活における宗教の密着度です。日本は特定の宗教を深く信仰しない無宗教が浸透しているのに対し、インドネシアではイスラム教をはじめとしてさまざまな宗教を信仰している人が多いため、宗教が生活や法律、ビジネスなどの基盤であるといえるほど深く根付いています。
宗教理解不足が雇用トラブルにつながる構造
インドネシア人材を雇用するにあたって、宗教への理解不足は深刻な雇用トラブルや早期離職につながる原因となり得ます。インドネシアでは信仰が生活や仕事の根幹にあるということを企業側が十分に理解していないと、些細な配慮不足が大きなトラブルへと発展してしまう恐れがあるため注意が必要です。
例えば、礼拝の時間と場所が確保できない、ラマダンへの対応や食事・食品への配慮が不十分など、宗教的習慣への配慮不足からトラブルに発展するケースがあります。また、「不浄の手」とされる左手の使用は避けるのが望ましいなど、文化的タブーの無理解が大きな失礼にあたることもあります。
採用・労務管理における宗教理解の位置づけ
外国人労働者の採用・労務管理における宗教理解は、職場での円滑な協働やトラブル防止を実現するためには欠かせない要素のひとつです。 日本と海外では宗教観が異なり、海外では日常に信仰が根付いていることが多いため、適切な相互理解に基づく柔軟な対応が求められます。
労働基準法においても、宗教や国籍を理由とする賃金、労働時間などの差別的扱いは禁止されています。採用時には宗教上の慣習を丁寧に確認し、業務との折り合いの付け方など、どのように配慮できるかについて、相互に合意形成をすることが重要です。
多宗教国家インドネシアという前提

インドネシアは単一宗教国家ではなく、多様な宗教が共存する国家です。ここでは、公認宗教と宗教的多様性、国籍と宗教を一括りにできない理由、個人差を前提にした理解の必要性について、それぞれ解説します。
公認宗教と宗教的多様性
インドネシアでは人口の約87%がイスラム教徒ですが、ほかにもさまざまな宗教を信仰している人も多く、宗教的多様性が大きな特徴のひとつです。憲法では「唯一神への信仰」を前提に、「イスラム」「プロテスタント」「カトリック」「ヒンドゥー」「仏教」「儒教」の6つの宗教を公認しており、インドネシアは多様性を尊重する「多宗教国家」であるともいえます。
多民族・多宗教国家をまとめるためのスローガンである「多様性の中の統一」を掲げており、具体的には、異なる宗教の主要な行事が国民の祝日となり、互いの文化を尊重し合う習慣などがあります。
国籍と宗教を一括りにできない理由
インドネシアは世界最大のイスラム人口を抱える国であるものの、憲法で宗教の自由と多様性を保証している多民族・多宗教国家であり、イスラム国家ではありません。
バリ島のようにヒンドゥー教徒が多数を占める地域があったり、その土地固有の文化や宗教の要素が融合した独自の信仰形態をもつ地域があったりと、宗教だけでなく文化や習慣も非常に多様です。
個人差を前提にした理解の必要性
インドネシア人のなかでも、厳格に戒律を守る人から、文化的な慣習として受け入れている人まで、信仰のあり方は人によってさまざまです。礼拝のペースや食事・食品の制限、女性の服装などは、個人の意見を確認して尊重することが求められます。
インドネシアにおける宗教と日常生活の関係
インドネシアにおける宗教と日常生活の関係として、「宗教行為と生活リズム」「食事・服装・価値観への影響」「職場で無視されやすい生活上の前提」のそれぞれについて解説します。
宗教行為と生活リズム
インドネシア人にとって、宗教行為と生活リズムは密接に結びついています。生活はイスラム教の教えに基づいている場合が多く、例えば礼拝は1日5回(夜明け、昼、午後、日没後、夜)行うため、特に昼の礼拝時間は職場でも休憩や場所の配慮が求められます。
また、1ヶ月間、日の出から日没まで飲食を断つ断食 (ラマダン)の期間は、日中の仕事量を軽減するなど、労働時間の調整が望ましいです。食事においては、イスラム教では豚肉やアルコールが禁止されているため、食事や食材の提供にはハラル認証を確認するとよいでしょう。
食事・服装・価値観への影響
インドネシアの食文化は、イスラム教の「ハラル(許可されたもの)」と「ハラム(禁じられたもの)」のルールに影響を受けている側面があります。
例えば、豚肉とアルコールは禁止されており、豚の成分が含まれるエキスやスープも避けられています。レストランや食品を選ぶ際には、ハラル認証があるかどうかが重視される場合が多いです。断食 (ラマダン)の期間は、日中の営業時間が短縮されたり、レストランがカーテンをして営業したりします。
服装においては、イスラム教の教えであるアウラ(隠すべき肌の露出)に基づいて、特に女性は肌や髪の露出を控える服装が一般的です。 女性はヒジャブと呼ばれる髪を隠すスカーフを着用するのが一般的で、ファッションの一部としても定着しています。また、男女問わず、肩や脚を露出しない服装が好まれます。
インドネシアでは、家族やコミュニティを重視する価値観が根づいているのも大きな特徴です。また、人前では大声で怒らない、過度なスキンシップを避けるなど、控えめな行動が美徳とされる傾向にあります。
職場で無視されやすい生活上の前提
インドネシア人が日本の職場で理解されにくいのは、主に宗教的な習慣やおおらかな時間感覚などです。例えば、インドネシア人には「ゴム時間」と呼ばれる考え方があり、時間は伸び縮みするものという意識があるため、約束や納期に対して日本人が求めるほどシビアではありません。
また、多少のトラブルは「仕方ない」「なんとかなる」と楽観的に捉える傾向があるため、危機感が薄いと誤解される場合も多いです。さらに、インドネシアでは仕事より家族やコミュニティを優先する文化があるため、プライベートを犠牲にしてまで残業するという意識は低い傾向にあります。
イスラム教徒が多数派であることによる実務上の影響
インドネシアにおいて多数派であるイスラム教徒の宗教的特徴が職場運営に与える影響について、「時間管理」「食事制限」「宗教行事」「心理的配慮」のそれぞれについて解説します。
礼拝や断食による時間管理への影響
インドネシア人の生活において、礼拝と断食は時間管理に非常に大きな影響を与えます。礼拝と断食は宗教的義務として日常の一部となっており、業務のスケジュールや生産性にも配慮が求められます。例えば、礼拝は1日5回行うため、勤務時間中も1〜2回、1回5〜10分程度、清潔な礼拝スペースの確保が必要な場合があります。
また、断食期間中は、日中の水分・栄養補給ができないため、体力や集中力が低下しやすくなります。生産性の低下を考慮し、労働時間の短縮や、休憩時間を柔軟に管理するなどの配慮が必要になるでしょう。
食事制限と職場環境への配慮
食事の提供がある場合は、豚肉とアルコールを含む食品・調味料は避け、可能な限りハラル認証マークのあるレストランや食材を選びます。豚肉を扱わない調理器具を使用するなど、混入を防ぐ配慮も必要です。
また、礼拝の時間には祈る場所として清潔なスペースと、礼拝前に手足を洗える場所を確保します。断食期間中は、勤務量や休憩時間の調整などの柔軟な対応があるとよいでしょう。
宗教行事と労働条件の関係
毎週金曜の昼は、男性は特に集団礼拝へ行くことが重視されるため、昼休みの延長や、休憩時間の調整が必要な場合があります。また、断食明けの大祭(レバラン)は、多くのインドネシア人が家族と過ごすために長期休暇による帰国を希望する方が多い傾向にあります。
心理的配慮と信頼関係の構築
インドネシア人と信頼関係を築くためには、文化的な背景や宗教的習慣、温和で親しみやすい国民性への理解が大切です。心理的配慮としては、宗教的習慣への理解や対面でのコミュニケーション重視、楽観的な性格を尊重することを心がけるとよいでしょう。
また、左手は「不浄の手」とされているため、物の受け渡しや握手の際には必ず右手を使うのがマナーです。
宗教と国民性・価値観を混同してはいけない理由

宗教と国民性は、分けて考えることが大切です。ここでは、宗教が行動規範に与える影響や国民性には個人差がある点、マネジメントトラブルにつながる構造について、それぞれ解説します。
宗教が行動規範に与える影響
インドネシアにおいて、宗教は日常生活の基盤であり、行動規範に深く根付いています。具体的には、礼拝や断食、ハラルなど、日常生活や時間管理に大きく影響を与えています。また、宗教的な価値観に基づいて、礼儀正しさや目上の人への敬意が重要視されている点も大きな特徴です。
国民性は傾向であり個人差がある点
国民性は、その国の歴史や風土、教育、社会構造などによって形成される集団としての傾向であり、全員がその特徴をもつわけではありません。
インドネシアの国民性は、温厚で集団主義的な傾向が強いとされていますが、あくまで全体的な傾向であり、個人差も大きいです。300以上の民族と多宗教が混在する多民族国家であるため、一括りにすることはできません。
誤解がマネジメントトラブルにつながる構造
例えば、インドネシア人は時間ルーズであるといわれていますが、「時間を守らない、いい加減な人だ」と決めつけたり、納期や遅刻に対する厳格な管理が精神的負担となったりすることで、離職につながってしまう恐れがあります。
時間管理のルーズさの裏にあるおおらかさにも目を向け、締め切りを中間目標に細分化して進捗を確認するなど、寄り添う姿勢も大切です。
インドネシアにおけるタブーの考え方と整理方法
適切な配慮をするためには、インドネシアにおけるタブーを理解しておくことも重要です。ここでは、宗教・文化・慣習のそれぞれのタブーや、地域・民族差による違い、一括りすることのリスクについて、それぞれ解説します。
宗教由来のタブー
イスラム教においては、食事の場面では豚肉とアルコールは厳禁です。また、断食期間中は、日の出から日没まで飲食や喫煙ができないため、日中にイスラム教徒の前で飲食や喫煙をすることは避けましょう。
文化・慣習由来のタブー
身体動作のマナーとしては、物の受け渡しや握手、食事、指差しには右手を使用し、左手の使用はタブーです。また、頭は神聖な場所とされているため、頭に触れることもタブーで、相手が子どもであっても頭を撫でてはいけません。
地域・民族差による違い
インドネシアは300以上の民族が共存する多民族国家であるため、地域や民族によって宗教心や性格、言語などが大きく異なります。例えば、最大民族のジャワ人は穏やかで繊細、スンダ人は明るく陽気といわれているなど、ジャワ島西部と中東部でも気質に違いが見られる傾向にあります。
一括りにすることのリスク
インドネシア人は、地域や民族によって宗教心や気質、コミュニケーションスタイルなどが大きく異なるため、国民を「インドネシア人」と一括りにすることは、実態を見誤る大きなリスクを伴います。信頼関係の構築が上手くいかず、チームの不和にもつながりかねません。
日本企業との文化・宗教ギャップが生まれる構造
日本企業とインドネシア人材の間で摩擦が生じる背景として、日本側とインドネシア側の認識についてそれぞれ解説します。
日本側
インドネシア人と比べると、日本人はプロセスを重視し、完璧主義の傾向にあります。途中経過を報告して修正を加えながら100%の完成品を目指し、マニュアル遵守、ミスのない丁寧な仕事を期待する場合が多いです。また、時間厳守や開始5分前行動を意識する方も多いことが特徴です。
インドネシア側
インドネシア人は、結果重視で楽観主義な場合が多く、まずは完成させてから見せるなど、途中の相談は少ない傾向にあります。ポジティブに物事をとらえる傾向や多少の時間の遅れは許容される文化があります。
前提のズレが生む誤解と不満
日本企業とインドネシア人の間における前提認識のズレが生む誤解や不満は、主に宗教やコミュニケーションスタイル、仕事への価値観のズレが原因となる場合が多いです。インドネシアは親日国で親しみやすい国民性をもつ一方で、日本的な「阿吽の呼吸」は通用しにくいため、明文化された指導が求められます。
宗教配慮を制度設計として考える必要性
宗教配慮を制度として設計する重要性や、具体的な落とし込み方、公平性と継続性の確保について、それぞれ解説します。
属人的対応の限界
インドネシア人の雇用において、イスラム教の戒律に基づく配慮は不可欠です。しかし、対応を現場の管理職や担当者の個人の裁量に依存し続けると、さまざまな場面で限界やリスクが生じます。担当者や場面によって配慮にムラが生じると、不満や不信感へとつながり、トラブルの原因にもなり得ます。
勤務体制・休憩・福利厚生への落とし込み
礼拝の時間と昼食休憩を合わせる、または5〜15分程度の休憩を認めるなど、礼拝の時間を確保するための勤務体制や休憩時間の設定を検討しましょう。また、インドネシアでは断食明けの大祭の前に「宗教大祭手当」の支給が義務付けられているため、その時期に合わせてボーナスや特別手当を検討すると、モチベーション向上に大きく寄与します。
公平性と継続性の確保
宗教配慮は特別扱いではなく、長く安心して働いてもらうための公平な環境整備であるべきです。信仰生活と労働環境が調和する仕組みが、結果として人材定着につながります。もちろんイスラム教だけでなく、ヒンドゥー教やキリスト教などの休日も尊重し、公平性を保てるようにすることが大切です。
インドネシアの宗教理解を採用・定着につなげる考え方
インドネシア人を採用する前に宗教への理解を深めることは、定着率向上に大きく寄与します。
採用前に整理すべき観点
礼拝や食事の禁忌、断食期間、服装、金曜礼拝など、宗教を生活の基盤とする文化について、正しく理解しておく必要があります。また、プライドを傷つけないよう人前で叱らないようにする、時間管理のルールを細かく確認するなど、接し方についてのポイントも整理しておきましょう。
ミスマッチ防止への効果
インドネシア人にとって、宗教は生活習慣そのものであり、仕事やコミュニケーションにおいても大きな影響を与えます。採用前に文化や宗教について理解し、接し方を整理しておくことで、必要な配慮や体制の整備ができるため、ミスマッチの防止につながります。
定着率向上との関係
必要な配慮や体制が整備されていれば安心して働けるようになるため、インドネシア人は非常に誠実に働き、長期的に活躍する人も多いです。結果として、定着率の向上につながるといえるでしょう。
まとめ
インドネシア人は宗教が生活習慣に深く関わっているため、宗教理解を深め、適切な配慮や体制を整えることで、長期的に活躍する人材として期待できる存在です。
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