制度・雇用契約
「技能実習」と「特定技能」は、共通点も多く混同されがちですが、両者は似て非なるものです。制度の目的などの違いを把握することで、自社に必要な外国人材の特徴を理解し、適切な受け入れを実現できる可能性が高まります。
この記事では、技能実習と特定技能における7つの違いや、技能実習生が特定技能へ移行できるケースなどを解説します。外国人材の受け入れを検討している採用担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
技能実習と特定技能の基本をおさらい
技能実習と特定技能の違いを理解するためには、まず各制度の基本知識を理解しておくことが大切です。ここでは、技能実習と特定技能それぞれの基本をおさらいしましょう。
技能実習
「技能実習」とは、日本の技能や技術、知識を発展途上国から来日した実習生に習得してもらうための在留資格です。日本が持っている技能を実習生が母国に持ち帰ることで、発展途上国などの経済発展に貢献することを目的としています。
技能実習生を受け入れる方法として、以下の2つが挙げられます。
・企業単独型
- ・団体監理型
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企業単独型は、日本の企業が現地法人などから実習生を受け入れる方法です。一方の団体監理型では、非営利の監理団体を仲介して実習生を受け入れます。
なお、技能実習制度は、2023年4月に開かれた政府の有識者会議の結果、廃止される見込みです。2024年以降には、技能実習制度の代替となる新制度への変更が予定されています。
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特定技能
2019年4月に創設された「特定技能」は、人材確保が難しい特定産業分野において、即戦力となる外国人の就労を目的とした在留資格です。そのため、前述した技能実習とは目的が異なる制度といえます。
特定技能は、1号と2号に分類されています。
- 特定技能1号
働く分野に相当する知識、または経験が必要な業務に従事できる技能を持っている外国人向けの在留資格。
- 特定技能2号
働く分野において熟練した技能を持っている外国人向けの在留資格。
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技能実習と特定技能の7つの違い
技能実習と特定技能には、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、それぞれの違いを7つの項目で具体的に紹介するので、外国人労働者に関する知識を深める際に役立ててください。
(1)目的の違い
先述のとおり、技能実習と特定技能には、目的の違いがあります。
技能実習においては、日本の技能を習得した外国人が帰国後、母国の経済や技術発展に貢献することがおもな目的です。
一方の特定技能は、すでに一定の技能や専門性を持つ外国人を受け入れることで、人材不足を解消する目的があります。技能の習得ではなく、労働力を確保するために設けられた制度であることが、技能実習との大きな違いです。
(2)職種・分野の違い
それぞれ在留資格という共通点はありますが、認められている職種や分野には違いがあります。そのため、技能実習では認められていても特定技能では認められていない、またその逆もあることを理解しておきましょう。
技能実習生は、農業や漁業、建設関係、食品製造関係など、87職種159作業での受け入れが認められています(2023年3月31日時点)。一方の特定技能で認められているのは、介護やビルクリーニング、産業機械製造業など12の特定産業分野です。
なお、2023年6月9日の閣議決定により、特定技能2号の対象分野が従来の2分野から11分野に拡大されることとなっています。
(3)在留期間の違い
技能実習では、以下のように在留期間が定められています。
- 技能実習1号……1年以内
- 技能実習2号……2年以内
- 技能実習3号……2年以内
技能実習2号・3号の更新または取得が認められた場合は、最大で5年の在留が可能です。ただし、2号・3号に変更する場合は、実習生が技能評価試験に合格する必要があります。
特定技能では、以下のように在留期間が定められています。
- 特定技能1号……通算で5年
- 特定技能2号……実質無期限
- 特定技能2号には更新回数の制限がないため、更新し続けられる場合は実質無期限で日本に滞在可能です。5年が経過したあとも日本での生活を希望するのであれば、1号から2号に移行する選択肢が有効でしょう。
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(4)「家族帯同」可否の違い
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家族帯同とは、母国にいる外国人労働者の家族を来日させ、一緒に生活することを意味します。留学や就労の在留資格を持っている場合は家族帯同が認められていますが、技能実習や特定技能1号では家族の帯同が認められていないのが現状です。
特定技能2号では、配偶者と子どもに限り家族帯同が認められています。これまでは2号の対象分野が充実していなかったこともあり、家族を帯同しているケースは多くありませんでした。今後は対象分野が拡大されるため、家族を帯同する労働者は増加するかもしれません。
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(5)転職の可否の違い
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そもそも技能実習の在留目的は就労ではなく実習であり、転職という概念がありません。そのため、転職は原則できない決まりとなっていますが、受け入れ先企業の都合、もしくは2号から3号へ移行するタイミングに限り、例外的に許可されるケースがあります。
一方の特定技能は、就労を目的とした在留資格ということもあり、転職が認められています。ただし、転職先の分野における技能評価試験に合格する、同一分野であるなど、一定の条件を満たしていなければなりません。
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(6)就労前後にかかわる機関の違い
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技能実習と特定技能の受け入れでは、かかわる機関に違いがあります。そのため、受け入れまでのプロセスやかかわる機関、費用などに違いがあることを理解することが大切です。
技能実習生を団体監理型で受け入れる場合は、外国の送出機関と契約している監理団体から紹介してもらわなければなりません。監理団体には契約で定められた監理費として、1人当たり2万5,000円~5万円程度を毎月支払う必要があります。
一方の特定技能外国人の受け入れに関しては、特段制限は設けられていません。そのため、自社で採用活動を行ったり登録支援機構のサポートを受けたりなど、選択の自由度は高くなります。登録支援機関を利用した場合は、技能実習よりも費用を抑えられることが多いようです。
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前述のように、外国人労働者を受け入れる際には、監理団体や登録支援機関といった外国人を支援する機関とかかわります。監理団体は企業を監督する役割を担っており、登録支援機関は特定技能外国人を雇用する企業を支援します。
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(7)受け入れ可能な人数の違い
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技能実習の場合は、受け入れ可能人数に制限があります。その理由は、目的である「技能移転」を適切に行う必要があるためです。具体的な人数としては、常勤職員の総数が30人以下なら3人、31人~40人なら4人といった制限が設けられています。
特定技能に関しては、そもそも人手不足の解消を目的としているため、受け入れ人数の制限はありません。ただし、建設と介護の分野に限っては制限が設けられているため注意してください。
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どちらの制度で受け入れるか迷う……。参考にしてほしい考え方
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ここまで、技能実習と特定技能の違いを確認してきましたが、どちらの制度で受け入れるべきか迷ってしまう採用担当者の方もいるでしょう。実際に受け入れる際は、どのように選択すると良いのでしょうか。
そもそも、自社で従事してもらう予定の業務内容が技能実習および特定技能の対象分野でなければ、外国人労働者を受け入れられません。そのため、まずはどちらの対象分野に該当するのかを確認することが大切です。
また、両方の制度で受け入れ可能だとしても、自社が従事してもらいたい業務を任せられない可能性があるかもしれません。どちらの制度でも受け入れ可能な場合は、以下のような項目で検討するとよいでしょう。
- ・日本人と同様に幅広い業務を任せたい
- ・外部への費用を抑えたい
- ・育成の負担が少ない即戦力を求めている
- ・日本語を指導する体制が整っているか
- ・どの程度の期間で雇用したいのか
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技能実習から特定技能へ移行できるケースもある
- 技能実習生は、特定技能へ移行できるケースがあることをご存じでしょうか。移行できれば、技能実習が終了しても帰国せずに最長5年働けます。ここでは、移行方法を紹介するので、優秀な人材を残したい場合の方法として参考にしてください。
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移行するための要件
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技能実習から特定技能1号に在留資格を移行するためには、以下の2つの要件を満たしている必要があります。
- ・技能実習2号を良好に修了していること
- ・技能実習の職種および作業内容と特定技能1号の職種に関連性があること
なお、技能実習3号で在留している場合は、「技能実習計画」を満了していることで要件を満たすことが可能です。技能実習計画とは、受入れ企業が適正な技能実習を行うために、実習生ごとの実習内容を記載した計画書のことです。
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移行に必要な手続き
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技能実習から特定技能に移行する手続きでは、さまざまな書類を用意して申請しなければなりません。例えば、在留資格変更許可申請書や、特定技能外国人支援計画書などを用意する必要があります。本人が用意する書類もあれば、勤務先が用意する書類もあり、不備のないよう念入りに確認することが重要です。
なお、用意する書類の内容は、勤務先の条件や職種によって異なります。滞りなく移行手続きを進めるためにも、出入国在留管理庁のWebサイトを確認しながら準備を進めるのがおすすめです。
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まとめ
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技能実習と特定技能は、どちらも外国人労働者の在留資格です。それぞれの制度では、目的の違いや対象職種の違いなどがあるため、外国人材を受け入れる前に確認しておくとよいでしょう。
どちらの制度で受け入れるべきか迷っている場合は、さまざまな視点で考えてみることで自社に適した選択が実現できます。また、技能実習から特定技能への移行を検討する際は、移行における要件や手続きを確認しておくことが大切です。
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