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2023年6月に改正入管法が成立・公布されました。入管法は2019年にも大きな改正がされましたが、今回の入管法改正で具体的にどのような点が変更されたのか、よくわからない企業の採用担当者もいるでしょう。
この記事では、2023年の改正入管法の内容や変更点をはじめ、入管法改正における問題点やメリット・デメリット、近年の入管法改正の動向についてわかりやすく解説します。
目次
入管法とは?
入管法はポツダム命令に基づいて1951年に公布された法律で、正式名称を「出入国管理及び難民認定法」といいます。この入管法には、以下のような目的が示されています。
第一章 総則
(目的)
第一条 出入国管理及び難民認定法は、本邦に入国し、又は本邦から出国する全ての人の出入国及び本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図るとともに、難民の認定手続を整備することを目的とする。
つまり日本からの出国、または入国の際に必要となるルールや、難民が助けを受けるためのルールを定めている法律のことです。上記の法律には、外国人の在留資格の変更や不法滞在の防止、在留カードの交付手続きなどに関する法律も含まれています。
2023年の入管法改正前に抱えていた課題
入管法はこれまでにも何度か改正されていますが、2023年の入管法改正前に抱えていた課題は、大きく分けて3つあります。
- ・日本からの退去が難しい外国人が多いこと
- ・収容施設での収容が長期化していること
- ・難民などを確実に保護する制度が不十分であること
日本から退去すべきことが確定したほとんどの外国人は、そのままスムーズに退去しています。しかし外国人のごく一部には、難民認定申請を繰り返すことで退去を回避している方、航空機内で暴れたことで物理的に退去が不可能となっている方もいたのです。
また改正前の入管法では、退去が確定した外国人は本国へ送還するまで収容施設に収容することになっていましたが、上記の理由により収容が長期化しました。
収容の長期化を防ぐため、仮放免制度を柔軟に活用することにより一時的に収容を解除していました。しかし逃亡を防止する手段が不十分だったこともあり、仮放免者の逃亡が多発したのも入管法の課題の一つといわれています。
2023年の入管法改正で何が変わる?
2023年6月9日に改正入管法が成立、同年6月16日に公布されました。ここでは、2023年の入管法改正により何が変わったのかを紹介します。
なお、この改正法は順次施行されることになっています。
入管法改正による変更点
2023年の入管法改正による変更点は以下のとおりです。
- ・難民認定の申請が3回目以降の場合、「相当な理由」を示さないと本国への強制送還が可能となる(改正前までは、難民認定の申請中は送還が認められなかった)
- ・難民には該当しないが紛争などから逃れてきたという人を、補完的保護対象者として保護する
- ・退去命令を受けたにもかかわらず送還を妨害した場合の刑事罰を新設する
- ・入管施設への収容の要否を3ヵ月ごとに見直す
- ・収容施設ではなく、支援者や親族など入管が認めた「監理人」のもとで生活できる制度を新設する
この改正は、外国人の長期収容の解消が目的といわれています。
入管法改正に対する反対意見や問題点
上記の内容は、国内外から批判をあびるものになっています。その大きな理由は“難民認定の申請が3回目以降の場合、「相当な理由」を示さないと本国への強制送還が可能となる”という点です。
日本は他国よりも難民認定が厳しいとされています。十分な審議がされず難民不認定となり、何回も申請せざるを得ない方もいる状況で改正案が施行されると、本来保護すべき人を本国へ送還してしまう可能性があるのです。
送還を拒んでいる外国人のほとんどは、祖国に帰ると身の危険がある方や日本で生まれ育った方、日本人の配偶者がいる方などです。国際的な人権基準やリスクが懸念されているにもかかわらず改正案が成立したことで、さまざまな方面から批判をあびることとなりました。
また、1回目の審査で不認定となり不服申し立てを行った場合、2回目の審査は難民審査参与員が担当します。しかし、この難民審査参与員は100名以上いるにもかかわらず、審査件数に大きな偏りがあったことも問題視されています。
・日本の難民認定率が低い理由
他国と比べると、日本の難民認定率は圧倒的に低いのが現状です。その理由として考えられるものは4つあります。
- ・出稼ぎ目的での在留を防止するため
- ・日本の「難民」の定義が狭いため
- ・言葉の壁があるため
- ・難民審査参与員の審査件数に偏りがあるため
2010年に日本では、すべての難民認定申請者に対して就労を許可していました。その結果、支援を必要としている方だけでなく、出稼ぎ目的で難民認定を申請する方が急増しました。
このことから一律での就労許可を2018年に廃止し、難民認定の基準が厳格化されたのも、難民認定率の低さに大きく関係しています。
入管法改正の歴史
1951年に公布された入管法は、これまで社会情勢に合わせて改正を繰り返してきました。特に大きな動きがあった改正は、以下のものが挙げられます。
1982年:戦前から日本に住む韓国人・朝鮮人・台湾人の特例永住権を認定
1980年代後半~1990年:在留資格の明確化・不法就労者の雇用主に対する厳罰化を規定
2009年:在留カードの交付
2019年:在留資格「特定技能」の創設
上記のほかにも2000年以後だと2001年、2004年、2005年、2006年、2009年といった時期に細かい改正が行われていました。
ここでは、2019年の改正入管法と、廃案となった2021年の入管法改正案および取り下げられた理由を紹介します。
特定技能の新設!2019年の入管法改正
2019年に行われた入管法改正による変更点と、企業側が感じることとなったメリット・デメリットを解説します。
入管法改正による変更点
2019年の入管法改正によって、在留資格である「特定技能」が新たに創設されました。特定技能が導入されたことで、人手不足が深刻化していた特定産業分野で即戦力となる外国人を雇用できるようになりました。
これまで技能実習生は最長5年間しか日本に滞在できませんでしたが、特定技能への移行が可能になったため、日本で長期間働き続けられるようになったのです。
特定技能については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
外国人労働者の在留資格「特定技能」とは?1号と2号の対象分野などをわかりやすく解説
なお、技能実習制度は2024年以降に廃止され、新制度である「育成就労制度」が新設される見込みです。技能実習制度の廃止や新制度については、以下の記事をご参照ください。
【最新動向】育成就労制度とは?基本的な考え方や重要なポイントを解説
【技能実習生の受入れ制度が新制度へ移行】経緯や外国人・企業への影響などを解説
特定技能の創設による企業にとってのメリット・デメリット
特定技能の創設が与える企業へのメリットとしては、人手不足の解消はもちろんのこと、外国人に単純労働を含む幅広い業務を任せられるようになりましたので生産性の向上が見込めます。また、都市部をはじめ、人口が減少しつつある地方の人手不足解消にも繋がると考えられますので、地方の活性化にも繋がるでしょう。
一方、デメリットとしては、「転職」が認められている制度のため、日本人同様にそのリスクは避けられません。
ONODERA USER RUN(オノデラユーザーラン)では、特定技能外国人の教育や各企業に適した人材の紹介、登録支援などを行っています。「外国人の雇用を考えている」「外国人を雇用したいが時間に余裕がなくてなかなか進まない」とお悩みの場合は、全力でサポートいたしますのでお気軽にご相談ください。
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取り下げられた2021年の入管法改正案
2021年に廃案となった改正案の内容と、可決されずに取り下げられた理由について解説します。
入管法改正案の内容
2021年の入管法改正案のおもな内容は以下のとおりです。
- ・難民認定手続き中の外国人でも、申請回数が3回以上になった場合は強制送還が可能となること
- ・不法滞在者を速やかに帰国させること
- ・強制送還を拒む人に対して刑事罰を加えること
- ・難民には該当しないが紛争などから逃れてきたという人を、補完的保護対象者として保護すること
- ・収容施設ではなく、支援者や親族など入管が認めた「監理人」のもとで生活できる制度を新設する
- いくつかの理由により廃案となりましたが、前述した2023年の入管法改正の内容とほとんど同じであることがわかります。
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改正案取り下げの理由や背景
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2021年の改正案で多くの反対意見があがった理由は、先述の「入管法改正に対する反対意見や問題点」の見出しでお伝えした内容とほぼ同じです。
ただし、1つ異なる点があります。2021年3月6日に、長期収容されていたスリランカ人の女性が収容中に亡くなったという事件が発生したことです。これによって批判的な声がより多くなり、改正案が取り下げられることになりました。
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外国人労働者の受け入れにあたり企業がすべきこと
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外国人受入れ企業は、入管法の動向を日頃からチェックしておきましょう。入管法は外国人採用を行ううえで重要な法令であり、今後も新たな改正案が可決・成立してルールが変わる可能性もあります。
もし外国人を不法就労させてしまうと、罰則が科されてしまうことも考えられるため注意してください。
また、正確な情報や知識を身に付けつつ、外国人の受け入れ体制を整えることも大切です。誤った情報に左右されないためにも、専門知識を持っているかつ信頼できる機関へ相談できるようにしておくのをおすすめします。
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まとめ
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2023年の入管法改正では、本国への強制送還に関するものや送還を妨害した場合の刑事罰など、いくつかの点が変更・追加されました。しかしこの改正案は、本来保護すべき人を本国へ送還してしまう可能性があるとして、さまざまな方面から反対意見があがっています。
外国人の雇用を考えている企業が今できるのは「入管法の動向をチェックする」「正しい情報を知ったうえで受け入れ体制を整える」の2点です。そのほか、外国人の受け入れをスムーズに行うためには、外国人材に対する事前ガイダンスや生活オリエンテーションなどの支援が大切であることも覚えておきましょう。
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